タイトル:七尾里山里海百景

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概要

七尾湾を中心とした豊富な資源から漁師町としても栄え、また能登らしい固有の農業文化も育み守られてきた、七尾市の里山里海の百の景色を紹介する電子ブックです。

食七尾里山里海百景06072能登なまこ七尾湾が育んだ、栄養満点、意外な人気者なまこは、奈良時代から平城宮に貢納されていた、格式高い、能登の冬の味覚である。日本人との関わりは深く、へんさん約1300年前に編纂された日本最古の歴史書『古事記』の中に「海鼠」という表記で記述が見られるほど。江戸時代には食材図鑑にも登場している。当時は乾燥したなまこをすりおろして漢方薬にしたほか、中国へも輸出されていたとか。グロテスクな見た目に反し、その高い栄養価と味わいは、古くから定評を得ていた。現代でもその人気は衰えることがない。中でも、七尾のなまこは磯の香りが強くしっかりとした食感が評判で、市場では他産地のなまこより2?3割高値で取引される。なまこには赤なまこと、青なまこがあり、七尾ではそのどちらもとれるが、主に「なまこ」というと、青なまこを指す。一方、赤なまこは、傷みにくいこともあり、高級品として扱われている。なまこは海中や海底の泥の中にあるプランクトンや有機物を餌に成長するため、その味の良し悪しは、育つ環境によって左右されると言われている。能登なまこが育つ七尾湾はというと、山から川を伝って豊富な養分が流れこむ「天然のいけす」である。さらに海底を覆う珪藻土のろ過作用で、海水は清浄に保たれている。加えて北陸特有の厳しい冬の寒さがその身を引き締めるため、適度な歯ごたえを持った、深い味わいのなまこが育つのである。なまこ漁は毎年11月6日に解禁され、2月まで行われるが、2月初旬の寒い時期のものが最も美味しいと言われている。かつて、『古事記』の記述では、「海鼠」と書いて「コ」と読んでおり、「なまこ」とは「生のコ」という意味だったという。地元では、生のなまこをスライスして三杯酢で和える「なまこ酢」がポピュラーな食べ方で、生の身独特のコリコリした食感が人気である。また、「コ」の「ワタ(腸)」を塩漬けにした「このわた」や、「口」先にある卵巣を1本1本取り出して三味線のバチのような形に整えて素干しにする「くちこ」などの加工品も多く、身から内臓まで無駄にせずに食されている。参考文献―書籍『新修七尾市史13民俗編』(七尾市)「漁村の民俗」P 102-108『図説七尾の歴史と文化』(七尾市)「近世」P 126―ホームページ『能登なまこ』(なまこ加工協同組合)なまこ酢能登なまこ(青なまこ)